BCPは、作った瞬間から古くなり始めます。人は入れ替わり、取引先は変わり、ITはクラウドへ移り、脅威も制度も毎年動く――1年前の計画は、1年分だけ現実とずれているのです。中小企業庁の指針も、大きな変化がない場合でも1年ごとの見直しを勧めています。この記事では、年に1度の見直しで最低限チェックしたい5つの項目と、無理なく続けるコツをまとめます。
「作って終わり」のBCPは、いざという時に使えない
まず、前向きな変化から。民間調査会社・帝国データバンクの2026年調査(2026年5月実施)によると、BCPの策定率は全体で21.4%と過去最高を更新しました。中小企業も18.3%まで伸びており、「BCPを作る」会社は着実に増えています。取引先からの要請や事業継続力強化計画の認定制度が、後押しになっているのでしょう。
しかし、作った後はどうでしょうか。BCPの弱点は、「完成した日が、いちばん正確な日」だということです。緊急連絡網に載っている担当者が退職していた、復旧手順に書かれたサーバーがもうクラウドに移行済みだった、仕入先が変わっていて代替調達先のリストが役に立たなかった――どれも、見直しを怠ったBCPで実際に起こることです。
国の指針も「年1回」を目安にしています。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、組織体制や取引先、中核事業、情報システムなどに大きな変化があったときの更新に加えて、大きな変化がない場合でも「1年ごとの見直し」が望ましいとしています。また、従業員の連絡先の変更のような安否確認に関わる情報は、年1回を待たずその都度すぐ更新することが勧められています。内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月版)も、見直し・改善までを事業継続の取り組みの一部と位置づけています。
年に1度は見直したい、5つの項目
とはいえ、BCPを毎年ゼロから作り直す必要はありません。見直しでチェックするのは、「1年で変わりやすいところ」に絞れば十分です。次の5項目を順番に確認していきましょう。
- 緊急連絡網と体制――その人は、まだいますか?
最初に確認するのは「人」です。連絡網の電話番号は現役か、安否確認の手段は全員に行き渡っているか、対策の責任者や代行者は在籍しているか。退職や異動があった年は、ここが最も崩れやすいポイントです。BCPの1ページ目に書いた体制図(「中小企業のBCP策定、最初の1ページに書くべきこと」)と、今の組織図を並べて見比べてください。なお連絡先の変更だけは、年1回を待たず変わったその時に更新するのが原則です。 - 取引先と「見えない依存」――頼る相手は変わっていませんか?
この1年で、仕入先や外注先、使っているクラウドサービスは増減しませんでしたか。「取引先が止まると、自社も止まる。「見えない依存」という事業継続リスク」で書いたとおり、自社が無傷でも、頼っている外部が止まれば事業は止まります。代替調達先のリストや、外部サービスが止まったときの代替手段が、今の取引の顔ぶれと合っているかを確かめましょう。 - IT環境と通信――計画に書いた機器は、まだその場所にありますか?
サーバーのクラウド移行、PCの入れ替え、回線の変更(「通信回線の冗長化、固定回線とモバイル回線をどう組み合わせるか」)――ITは1年で最も変わる領域です。復旧手順に書かれた機器が既に存在しない、というのは見直し不足のBCPの定番です。テレワークの普及度合いが変わったなら、出社できない場合の手順(「テレワーク時代のBCP、自宅勤務でも業務を止めない仕組み」)も併せて点検を。 - バックアップと電源――「戻せるか」を試しましたか?
バックアップは「取れているか」ではなく「戻せるか」がすべてです。年1回の見直しは、復元テストの実行日としても最適です。あわせて、UPSのバッテリー(数年で交換が必要な消耗品)やセルフテストも点検しましょう(「BCP対策で見落とされがちな「IT機器の停電対策」入門」)。データの保存先がこの1年でクラウドに移ったなら、「何をどこへバックアップするか」自体の書き換えが必要です。 - 発動基準と訓練――誰が「BCP発動」を決めますか?
最後は「動けるか」の確認です。どんな事態になったら、誰がBCPの発動を判断するのか。判断する人が不在のときは誰が代行するのか。2024年には南海トラフ地震臨時情報が初めて運用され、「被災する前の警戒段階でどう動くか」も現実の論点になりました。年1回、連絡網の試験送信やノートPCだけで業務をしてみる小さな訓練(「災害時の業務継続、最小限の準備で最大の効果を出す方法」)をセットにすると、見直しが「紙の上の作業」で終わりません。
無理なく続けるコツ――「日付」と「担当」を固定する
BCPの見直しが続かない最大の理由は、期限がないことです。「そのうちやろう」に期限はなく、日常業務に必ず負けます。対策はシンプルで、毎年同じ日を「BCPの点検日」として決めてしまうこと。9月1日の「防災の日」前後や、決算後の落ち着いた時期など、会社の恒例行事に組み込める日がおすすめです。BCPがなかなか進まない構造的な理由と付き合い方は「中小企業のBCP対策、なぜ進まないのか?5つの壁と解決のヒント」でも書いたとおりで、見直しも「完璧より継続」が原則です。
もうひとつ、制度側にも「見直しの期限」があります。事業継続力強化計画の認定を受けている会社は、計画期間(3年以内)の満了が近づいたら更新の申請が必要です(「事業継続力強化計画の認定を取ってみた|申請から認定まで、中小企業が実際にやったこと」)。年1回の点検日に「認定の期限まであと何年か」も確認しておくと、更新切れを防げます。
BCPの見直しとは、作り直すことではなく、
「計画と現実のずれ」を年に1度、元に戻すことです。
まとめ:5項目だけなら、半日で終わる
- BCPは完成した日がいちばん正確。人・取引先・IT・脅威と制度の変化で、1年分ずつ現実とずれていく
- 中小企業庁の指針も、大きな変化がなくても「1年ごとの見直し」を推奨。連絡先の変更だけはその都度すぐに
- 見直す項目は5つ=①緊急連絡網と体制 ②取引先と見えない依存 ③IT環境と通信 ④バックアップと電源(復元テスト込み) ⑤発動基準と訓練
- 続けるコツは「毎年同じ点検日」と「担当の固定」。防災の日や決算後など、恒例行事に組み込む
- 事業継続力強化計画の認定を受けているなら、計画期間(3年以内)の満了前に更新申請を
5つの項目のうち、多くの会社で最も時間がかかるのが③のIT環境の確認です。この1年で増えた機器、消えたサーバー、変わった回線――それを台帳や記憶だけで洗い出すのは、正直かなり骨が折れます。逆に言えば、社内のIT環境が常に見えていれば、BCPの見直しは半日仕事になります。
年1回の点検を軽くするために、まずは今のIT環境の見える化から始めましょう。
参考(公式情報)
※制度やガイドライン、統計の内容は更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
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連絡網もバックアップも、土台になるのは「社内に何があるか」の正確な把握です。SOLAMILUは、社内のネットワークとIT機器の状況を見える化し、年1回のBCP見直しを「半日で終わる点検」に変えるお手伝いをします。
