BCPというと、通信の確保やデータの保護は思い浮かんでも、「電気」そのものの備えは意外なほど見落とされます。しかし停電は、IT機器を二度止めます。一度目はその瞬間の業務とデータ。二度目は電気が戻った後――壊れた機器や消えたデータが、復旧の足を引っ張るのです。この記事では、中小企業がまず押さえるべき「IT機器の停電対策」の基本を、入門としてまとめます。
なぜ見落とされるのか――「日本は停電しない」という思い込み
日本の電力供給は世界的に見ても安定していて、平常時に停電を経験することはめったにありません。だからこそ油断が生まれます。しかし災害時は別です。近年の大型台風や地震では、広い範囲で停電が数日、場所によっては2週間近く続いた事例があります。2019年の台風では千葉県で長期停電が起き、2024年の能登半島地震でも電力の復旧には時間を要しました。
国の制度も、電気を事業継続の重要要素として扱っています。中小企業庁の「事業継続力強化計画」(「事業継続力強化計画の認定を取ってみた|申請から認定まで、中小企業が実際にやったこと」)の様式には、電気の確保について記載する欄があります。つまり停電対策は、BCPの「応用編」ではなく、計画に書くべき基本項目なのです。
停電がIT機器に起こすことは、3つあります。①作業中のデータが消える――保存前の書類や入力中の伝票はその場で失われます。②機器やデータが壊れる――特に書き込み中のNAS(ファイルサーバー)やデスクトップPCは、突然の電源断でデータ破損や故障が起きやすい機器です。③通信も一緒に止まる――光回線の装置(ONU)やWi-Fiルーターも電気で動いているため、停電すればネットも止まります(「光回線が止まった時、業務はどう守るか?中小企業の通信BCP入門」)。
入門・4つの基本対策
- UPS(無停電電源装置)を「正しい目的」で使う
UPSはバッテリーを内蔵した電源装置ですが、役割は「停電中も動かし続けること」ではありません。「安全に終了するための数分〜十数分を稼ぐこと」です。守る対象は、内蔵バッテリーを持たない機器――NAS・サーバー・デスクトップPC・重要なネットワーク機器。特にNASは、UPSと連携して自動で安全にシャットダウンする設定までがワンセットです。なお、UPSのバッテリーは消耗品で、数年ごとの交換が必要です。「設置して終わり」にしないよう、交換時期も台帳に載せておきましょう。 - ノートPCとスマホを「バッテリー内蔵機器」として活かす
ノートPCは、それ自体が数時間動くUPS付きの端末です。停電時に最低限の業務を続ける主役はノートPCとスマホになります。スマホのテザリングやモバイル回線を組み合わせれば、停電中でも通信を確保できます(「通信回線の冗長化、固定回線とモバイル回線をどう組み合わせるか」)。モバイルバッテリーと充電ケーブルを非常用持ち出しに含めておくと、さらに粘れます。 - バックアップは「停電と一緒に死なない場所」へ
社内のNASだけにバックアップを置いていると、停電や災害はバックアップごと襲ってきます。IPAの「情報セキュリティ6か条」にも加わった「バックアップを取ろう!」を実践する際は、クラウドや遠隔地など、オフィスの電源と運命を共にしない場所を必ず1つ含めてください。そして年に1回は、実際に戻せるかの復元テストを。バックアップの価値は「取れているか」ではなく「戻せるか」で決まります。 - 「復旧後の手順」を1枚にしておく
意外と混乱するのが、電気が戻った後です。おすすめの起動順序は、①ネットワーク機器(ONU・ルーター)→②NAS・サーバー→③各自のPC。逆順で立ち上げると「ネットにつながらない」「サーバーが見えない」という二次混乱が起きます。再停電や電圧の乱れに備えて、重要機器は少し間を置いて起動するのも安全です。この手順は、BCPの1ページ目とセットで紙にしておきましょう(「中小企業のBCP策定、最初の1ページに書くべきこと」)。
計画への落とし込みと、無理のない「訓練」
対策がそろったら、BCPに1行ずつ書き込みます。「停電時:ノートPC+テザリングで最低限の業務を継続」「UPS対象機器:NAS・サーバー」「復旧手順:掲示の1枚シートに従う」――この程度の簡潔さで十分です(全体の組み立ては「BCP対策とは?中小企業が今すぐ取り組むべき5つのステップ」)。
訓練も、ブレーカーを実際に落とす必要はありません。UPSのセルフテスト機能の実行、ノートPCだけで1時間業務をしてみる、復元テスト――この組み合わせで、停電対応の大部分は検証できます。最小限の準備で効果を出す考え方は「災害時の業務継続、最小限の準備で最大の効果を出す方法」と共通です。
停電対策とは、発電機を買うことではなく、
「電気が止まっても壊れない・戻ったらすぐ動ける」状態を作ることです。
まとめ:電気はITの土台。土台の備えはシンプルでいい
- 停電はIT機器を「その場のデータ消失」と「機器・データの破損」で二度止める。特に危ないのは書き込み中のNAS
- 近年の台風・地震では数日〜2週間規模の停電事例も。事業継続力強化計画にも電気の確保の記載欄がある
- 基本対策は4つ=①UPSで「安全に終了する時間」を稼ぐ(自動シャットダウン連携まで) ②ノートPC+テザリングで最低限を継続 ③バックアップは電源と運命を共にしない場所へ ④復旧後の起動順序を1枚に
- UPSのバッテリーは消耗品。交換時期も台帳で管理する
- 訓練はブレーカーを落とさなくてもできる(UPSセルフテスト・ノートPC業務・復元テスト)
停電対策の出発点は、「どの機器が電源を失うと危ないか」を知ることです。NASはどこに何台あるか、UPSにつながっているのはどれか――機器の全体像が見えていなければ、守る優先順位も決められません。
電気の備えも、まず社内のIT機器の見える化から始めましょう。
参考(公式情報)
※制度やガイドラインの内容は更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
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UPSで守るべき機器はどれか、NASはどこに何台あるか――優先順位は、機器の全体像が見えてこそ決められます。SOLAMILUは、社内のネットワークとIT機器の状況を見える化し、停電に強いITの土台づくりをお手伝いします。
