「添付ファイルを開いたら画面がおかしい」「PCに脅迫文が表示された」「取引先から『おたくから変なメールが来た』と連絡があった」――サイバー事故は、ある日突然、たいてい忙しい時間に起きます。結論から言うと、被害の大きさは最初の24時間の動き方でほぼ決まります。合言葉は「電源は切らない、線は抜く、一人で抱えない」。この記事では、中小企業の初動を時間軸で整理し、善意でやりがちな「やってはいけないこと」もまとめます。
まず最初の1時間――「止血」と「記録」だけでいい
結論から言うと、最初の1時間にやることは①感染が疑われるPCをネットワークから切り離す ②電源は切らない ③時刻と状況をメモする ④責任者に連絡するの4つだけです。原因究明も復旧も、この段階では一切しません。
いちばん大事なのは「線を抜くが、電源は切らない」という一見矛盾した動きです。ネットワークから切り離す(LANケーブルを抜く・Wi-Fiをオフにする)のは、被害が他のPCやサーバーへ広がるのを止めるため。一方で電源を切らないのは、メモリ上に残っている攻撃の痕跡が消えてしまい、後の調査ができなくなるからです。ランサムウェアの予兆段階で気づけていれば、この切り離しだけで被害を最小限にできることもあります(「ランサムウェアの予兆を見つける3つのサイン」)。
そして、記録。「何時何分に、誰が、何を見て、何をしたか」を、紙でもスマホのメモでも構わないので残します。後で警察や専門家に相談するとき、この記録があるかどうかで対応の質がまったく変わります。
1〜24時間――把握・相談・報告の3つを回す
結論として、止血が済んだら「どこまで影響したか」を把握し、外部に相談し、報告の要否を判断する――この3つを24時間以内に回します。技術的な復旧作業は、その後です。
- 影響範囲を把握する(何台・どのデータ・いつから)
切り離したPC以外に同じ症状がないか、共有フォルダやサーバーのファイルが暗号化・改ざんされていないか、そのPCで使っていたアカウントは何か。ここで「社内に何台あって、どこにつながっているか」が分かっていないと、把握は一気に難航します。侵入経路として多いメール添付(「メール添付ファイルが原因の事故、防ぐための3つの工夫」)は、誰が同じメールを受け取ったかの確認もセットで。
あわせて、感染PCで使っていたアカウントのパスワードを、無事な別のPCやスマホから変更します。対象はPC本体のログインパスワードではなく、そのPCからログインしていたサービスのアカウントです。感染PCで新しいパスワードを打ち込むと、それごと盗まれる恐れがあるため、必ず別の端末から行ってください。順番は①メール(他サービスの再設定の起点)→②クラウドや業務システムの管理者アカウント→③VPN・リモート接続→④ネットバンキング・決済→⑤社内チャット。変更後は、サービス側に「他端末のログインをすべて無効化」する機能があれば実行しておきます。 - 外部に相談する(一人で抱えない)
保守契約のあるIT業者、IPAの「情報セキュリティ安心相談窓口」、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口。相談は無料で、相談したからといって公表されるわけではありません。中小企業の担当者が一人で判断して自己流の復旧に走るのが、いちばん危ない展開です。 - 報告の要否を判断する(個人情報・取引先)
個人情報が漏えいした可能性がある場合、個人情報保護委員会への報告義務があります(要配慮個人情報、財産的被害のおそれ、不正の目的による漏えい、1,000人超のいずれか)。速報は概ね3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的による場合は60日以内)で、本人への通知も必要です。取引先の情報が関わるなら、取引先への一報も24時間以内に。誤送信のような内部起因の事故(「中小企業の情報漏洩、原因の8割は内部から」)でも、この報告義務は同じです。
やってはいけない5つのこと――善意が被害を広げる
結論から言うと、事故の現場で被害を広げるのは悪意ではなく、「早く直そう」「迷惑をかけまい」という善意の行動です。次の5つは、良かれと思ってやりがちな禁止事項です。
- ①電源を切る・再起動する。調査に必要な痕跡が消え、ランサムウェアによっては再起動で暗号化が進むこともあります。切るのは「線」だけ。
- ②自分で初期化・復旧を始める。原因が分からないまま戻すと、同じ穴からもう一度入られます。バックアップからの復旧も、影響範囲の把握と相談の後に。
- ③身代金を払う。警察庁は支払いを推奨していません。払ってもデータが戻る保証はなく、「払う会社」として再び狙われます。ランサムウェア被害の6割超が中小企業という現実(「中小企業を狙うサイバー攻撃の最新動向(2026年版)」)は、払った会社が再攻撃される構造とも無関係ではありません。
- ④証拠になるメール・画面を消す。不審メール、脅迫画面、ログは、そのまま残す。恥ずかしくても消さない。スクリーンショットも有効です。
- ⑤報告を先延ばしにして隠す。遅れるほど法的にも取引上にも不利になります。「まだ全容が分からない」段階でも、速報は出せます(というより、そのための速報です)。
初動は「事前に決めてあるか」で9割決まります。事故の最中に「誰に連絡するんだっけ」「電源切っていいんだっけ」と調べている時間はありません。IPAの中小企業向けガイドライン第4.0版には、インシデント対応の手引きが付録として用意されています。これをもとに、連絡先(社長・IT担当・保守業者・IPA・警察)と最初の4つの動きを1枚にまとめ、社内ルール(「社員のIT利用ルール、守ってもらえるルールの作り方」)に「おかしいと思ったら線を抜いて報告」の1行を加えておく――事前準備はこれだけで十分です。
事故対応の巧拙は、技術力ではなく「決めてあったかどうか」。
電源は切らない、線は抜く、一人で抱えない――この3つを、平時のうちに全員の常識に。
まとめ:最初の24時間チェックリスト
- 0〜1時間:疑わしいPCをネットワークから切り離す(電源は切らない)/時刻と状況を記録/責任者に連絡。原因究明も復旧もまだしない
- 1〜6時間:影響範囲(何台・どのデータ・どのアカウント)を把握/保守業者・IPA・警察に相談/感染PCで使っていたアカウントのパスワードを無事な端末から変更(メール→管理者→VPN→決済の順)/バックアップの無事を確認
- 6〜24時間:個人情報の漏えい報告の要否判断(速報は概ね3〜5日以内・確報30日以内、不正目的は60日以内)/取引先への一報/社員への周知/復旧の順番決め
- やってはいけない5つ=電源を切る・自己流復旧・身代金・証拠削除・隠す
- 平時の準備は「連絡先と最初の4つの動きを1枚に」。ルールに「おかしいと思ったら線を抜いて報告」を1行追加
24時間の中でいちばん時間を食うのは、「影響範囲の把握」です。社内に何台のPCがあり、どれがどのサーバーにつながっているか――これが平時から見えていれば、把握は数十分で終わります。見えていなければ、事故の最中に台帳作りから始めることになります。
インシデント対応の備えも、まずは社内のIT環境の見える化から始めましょう。
参考(公式情報)
※報告期限・制度は2026年9月時点の情報です。個別の事案では、公的窓口や専門家の判断を仰いでください。
この記事のFAQ
Q. ウイルス感染が疑われるPCは、電源を切るべきですか?
切らないでください。電源を切るとメモリ上に残る攻撃の痕跡が消え、原因調査が困難になります。ランサムウェアによっては再起動で暗号化が進むこともあります。やるべきことは、LANケーブルを抜く・Wi-Fiを切るなどでネットワークから切り離し、被害の拡大を止めることです。
Q. 個人情報が漏えいしたかもしれません。いつまでに報告が必要ですか?
要配慮個人情報を含む、財産的被害のおそれがある、不正の目的による漏えい、1,000人超のいずれかに当たる場合、個人情報保護委員会への報告が義務です。速報は概ね3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的による場合は60日以内)で、本人への通知も必要です。全容が分からない段階でも速報は出せます(2026年9月時点)。
Q. ランサムウェアの身代金は払うべきですか?
警察庁は支払いを推奨していません。払ってもデータが戻る保証はなく、「支払う会社」として再び狙われるリスクが高まります。ネットワークから切り離したうえで、保守業者・IPAの安心相談窓口・警察のサイバー犯罪相談窓口に相談し、バックアップからの復旧を検討してください。
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事故の最中に「何台あって、どこにつながっているか」を調べ始めるのでは遅すぎます。SOLAMILUは、社内のネットワークとIT機器の状況を平時から見える化し、いざという時の影響範囲の把握を数十分に縮める土台をつくります。
