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2026年9月11日
サイバー事故が起きた最初の24時間、やるべきこと・やってはいけないこと

「添付ファイルを開いたら画面がおかしい」「PCに脅迫文が表示された」「取引先から『おたくから変なメールが来た』と連絡があった」――サイバー事故は、ある日突然、たいてい忙しい時間に起きます。結論から言うと、被害の大きさは最初の24時間の動き方でほぼ決まります。合言葉は「電源は切らない、線は抜く、一人で抱えない」。この記事では、中小企業の初動を時間軸で整理し、善意でやりがちな「やってはいけないこと」もまとめます。

まず最初の1時間――「止血」と「記録」だけでいい

結論から言うと、最初の1時間にやることは①感染が疑われるPCをネットワークから切り離す ②電源は切らない ③時刻と状況をメモする ④責任者に連絡するの4つだけです。原因究明も復旧も、この段階では一切しません。

いちばん大事なのは「線を抜くが、電源は切らない」という一見矛盾した動きです。ネットワークから切り離す(LANケーブルを抜く・Wi-Fiをオフにする)のは、被害が他のPCやサーバーへ広がるのを止めるため。一方で電源を切らないのは、メモリ上に残っている攻撃の痕跡が消えてしまい、後の調査ができなくなるからです。ランサムウェアの予兆段階で気づけていれば、この切り離しだけで被害を最小限にできることもあります(「ランサムウェアの予兆を見つける3つのサイン」)。

そして、記録。「何時何分に、誰が、何を見て、何をしたか」を、紙でもスマホのメモでも構わないので残します。後で警察や専門家に相談するとき、この記録があるかどうかで対応の質がまったく変わります。

サイバー事故・最初の24時間のタイムライン 0〜1時間、1〜6時間、6〜24時間の3フェーズでやることを示す図。 最初の24時間は、この順番でしか動かない 発生 1時間 6時間 24時間 0〜1時間:止血と記録 ・疑わしいPCを線から切り離す ・電源は切らない ・時刻・状況・操作をメモ ・責任者(社長・IT担当)に連絡 原因究明も復旧も、まだしない 1〜6時間:把握と相談 ・何台・どのデータに影響か確認 ・保守業者・IPA・警察に相談 ・感染PCで使っていたアカウントの  パスワードを、無事な端末から変更 ・バックアップの無事を確認 一人で抱えず、外の目を入れる 6〜24時間:報告と復旧計画 ・個人情報の漏えい報告の要否判断 ・取引先・関係者への一報 ・社員への周知(何をしないか) ・復旧の順番を決める 速報は「概ね3〜5日以内」が目安 ※報告期限などは2026年9月時点の制度にもとづく。個別の判断は公的窓口・専門家に相談を
図1:前のフェーズを飛ばして復旧に走るのが、被害を広げる典型パターン

1〜24時間――把握・相談・報告の3つを回す

結論として、止血が済んだら「どこまで影響したか」を把握し、外部に相談し、報告の要否を判断する――この3つを24時間以内に回します。技術的な復旧作業は、その後です。

  1. 影響範囲を把握する(何台・どのデータ・いつから)
    切り離したPC以外に同じ症状がないか、共有フォルダやサーバーのファイルが暗号化・改ざんされていないか、そのPCで使っていたアカウントは何か。ここで「社内に何台あって、どこにつながっているか」が分かっていないと、把握は一気に難航します。侵入経路として多いメール添付(「メール添付ファイルが原因の事故、防ぐための3つの工夫」)は、誰が同じメールを受け取ったかの確認もセットで。
    あわせて、感染PCで使っていたアカウントのパスワードを、無事な別のPCやスマホから変更します。対象はPC本体のログインパスワードではなく、そのPCからログインしていたサービスのアカウントです。感染PCで新しいパスワードを打ち込むと、それごと盗まれる恐れがあるため、必ず別の端末から行ってください。順番は①メール(他サービスの再設定の起点)→②クラウドや業務システムの管理者アカウント→③VPN・リモート接続→④ネットバンキング・決済→⑤社内チャット。変更後は、サービス側に「他端末のログインをすべて無効化」する機能があれば実行しておきます。
  2. 外部に相談する(一人で抱えない)
    保守契約のあるIT業者、IPAの「情報セキュリティ安心相談窓口」、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口。相談は無料で、相談したからといって公表されるわけではありません。中小企業の担当者が一人で判断して自己流の復旧に走るのが、いちばん危ない展開です。
  3. 報告の要否を判断する(個人情報・取引先)
    個人情報が漏えいした可能性がある場合、個人情報保護委員会への報告義務があります(要配慮個人情報、財産的被害のおそれ、不正の目的による漏えい、1,000人超のいずれか)。速報は概ね3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的による場合は60日以内)で、本人への通知も必要です。取引先の情報が関わるなら、取引先への一報も24時間以内に。誤送信のような内部起因の事故(「中小企業の情報漏洩、原因の8割は内部から」)でも、この報告義務は同じです。

やってはいけない5つのこと――善意が被害を広げる

結論から言うと、事故の現場で被害を広げるのは悪意ではなく、「早く直そう」「迷惑をかけまい」という善意の行動です。次の5つは、良かれと思ってやりがちな禁止事項です。

やること・やらないこと 左にやるべき5つ、右にやってはいけない5つを並べた対比図。 善意の「早く直したい」が、いちばん危ない ○ やるべきこと ・LANケーブルを抜く/Wi-Fiを切る ・電源はそのまま(切らない) ・時刻・状況・操作を記録する ・保守業者・IPA・警察に相談する ・報告の要否を24時間以内に判断 止める・残す・頼る × やってはいけないこと ・電源を切る・再起動する ・自分で初期化・復旧を始める ・身代金を払う ・証拠になるメール・画面を消す ・報告を先延ばしにして隠す 消す・急ぐ・隠す この2枚を印刷して、サーバーラックか総務の壁に貼っておく
図2:右側は全部「善意」でやりがちな行動。だからこそ事前に決めておく
  • ①電源を切る・再起動する。調査に必要な痕跡が消え、ランサムウェアによっては再起動で暗号化が進むこともあります。切るのは「線」だけ。
  • ②自分で初期化・復旧を始める。原因が分からないまま戻すと、同じ穴からもう一度入られます。バックアップからの復旧も、影響範囲の把握と相談の後に。
  • ③身代金を払う。警察庁は支払いを推奨していません。払ってもデータが戻る保証はなく、「払う会社」として再び狙われます。ランサムウェア被害の6割超が中小企業という現実(「中小企業を狙うサイバー攻撃の最新動向(2026年版)」)は、払った会社が再攻撃される構造とも無関係ではありません。
  • ④証拠になるメール・画面を消す。不審メール、脅迫画面、ログは、そのまま残す。恥ずかしくても消さない。スクリーンショットも有効です。
  • ⑤報告を先延ばしにして隠す。遅れるほど法的にも取引上にも不利になります。「まだ全容が分からない」段階でも、速報は出せます(というより、そのための速報です)。

初動は「事前に決めてあるか」で9割決まります。事故の最中に「誰に連絡するんだっけ」「電源切っていいんだっけ」と調べている時間はありません。IPAの中小企業向けガイドライン第4.0版には、インシデント対応の手引きが付録として用意されています。これをもとに、連絡先(社長・IT担当・保守業者・IPA・警察)と最初の4つの動きを1枚にまとめ、社内ルール(「社員のIT利用ルール、守ってもらえるルールの作り方」)に「おかしいと思ったら線を抜いて報告」の1行を加えておく――事前準備はこれだけで十分です。

事故対応の巧拙は、技術力ではなく「決めてあったかどうか」。
電源は切らない、線は抜く、一人で抱えない――この3つを、平時のうちに全員の常識に。

まとめ:最初の24時間チェックリスト

  • 0〜1時間:疑わしいPCをネットワークから切り離す(電源は切らない)/時刻と状況を記録/責任者に連絡。原因究明も復旧もまだしない
  • 1〜6時間:影響範囲(何台・どのデータ・どのアカウント)を把握/保守業者・IPA・警察に相談/感染PCで使っていたアカウントのパスワードを無事な端末から変更(メール→管理者→VPN→決済の順)/バックアップの無事を確認
  • 6〜24時間:個人情報の漏えい報告の要否判断(速報は概ね3〜5日以内・確報30日以内、不正目的は60日以内)/取引先への一報/社員への周知/復旧の順番決め
  • やってはいけない5つ=電源を切る・自己流復旧・身代金・証拠削除・隠す
  • 平時の準備は「連絡先と最初の4つの動きを1枚に」。ルールに「おかしいと思ったら線を抜いて報告」を1行追加

24時間の中でいちばん時間を食うのは、「影響範囲の把握」です。社内に何台のPCがあり、どれがどのサーバーにつながっているか――これが平時から見えていれば、把握は数十分で終わります。見えていなければ、事故の最中に台帳作りから始めることになります。

インシデント対応の備えも、まずは社内のIT環境の見える化から始めましょう。

参考(公式情報)

※報告期限・制度は2026年9月時点の情報です。個別の事案では、公的窓口や専門家の判断を仰いでください。

この記事のFAQ

Q. ウイルス感染が疑われるPCは、電源を切るべきですか?
切らないでください。電源を切るとメモリ上に残る攻撃の痕跡が消え、原因調査が困難になります。ランサムウェアによっては再起動で暗号化が進むこともあります。やるべきことは、LANケーブルを抜く・Wi-Fiを切るなどでネットワークから切り離し、被害の拡大を止めることです。

Q. 個人情報が漏えいしたかもしれません。いつまでに報告が必要ですか?
要配慮個人情報を含む、財産的被害のおそれがある、不正の目的による漏えい、1,000人超のいずれかに当たる場合、個人情報保護委員会への報告が義務です。速報は概ね3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的による場合は60日以内)で、本人への通知も必要です。全容が分からない段階でも速報は出せます(2026年9月時点)。

Q. ランサムウェアの身代金は払うべきですか?
警察庁は支払いを推奨していません。払ってもデータが戻る保証はなく、「支払う会社」として再び狙われるリスクが高まります。ネットワークから切り離したうえで、保守業者・IPAの安心相談窓口・警察のサイバー犯罪相談窓口に相談し、バックアップからの復旧を検討してください。

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この記事を書いた人

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